今月から『摂食嚥下』について何回かに分けてご紹介したいと思います。。
先日NHKで「人生のディナー」という番組を見ました。終末期のケアを行うあるホスピスでは、週に1度患者さんの希望する食事を提供して身体の苦痛を取り除くだけでなく、“思い出の食事”を提供することで心のケアに取り組んでいるというものでした。サバのバッテラを注文した患者さんは、食糧難で苦労していた若い頃に、安く手に入るためよく食べていたことから好物になったとのこと。またある人は、子供の頃に母親がよく焼いてくれた硬めのお好み焼きをリクエスト。どれも人生と深く結びついた、その患者さんにとっての忘れられない味なのだそうです。
“食べる”ことはとっても複雑な動作!!
健康な人にとっての食事は何でもないことですが、“食べる”ということは脳をめいいっぱい使った、とても複雑な動作です。それは口から食べられなくなると身体活動や認知が低下することからもわかります。食べ物を胃に取り込むまでには、まず①口に取り込み、②飲み込みやすい形に咀嚼します。ここまでを摂食(せっしょく)と言います。そして食塊を③喉へ送り込み、④喉から食道、⑤食道から胃へ送り込む動作を嚥下(えんげ)と言い、合わせて摂食嚥下運動と呼びます。摂食嚥下運動は多くの神経と筋肉が複雑に連携しています。食塊がのどを通過するときには神経が刺激されて、誤って気管に入らないよう自動的にふたをするなど、嚥下の過程は自分の意思とは関係なく反射運動によって行われます。障害のある場合は①~⑤のいずれかに支障があるということになります。
脳血管障害が7割
摂食嚥下障害の原因をみると次の4つに大別できます。
A.むし歯や歯周病の痛みによる一時的なもの
B.口の形に異常のあるもの
C.神経・筋肉の障害によるもの
D.その他(老化、薬の副作用など)
中でもCが圧倒的に多く、脳血管障害が原疾患となっているケースが7割近くにも及びます。食事の際に必要な筋肉や神経の働きを司る脳の部分に障害をきたすからです。摂食嚥下の複雑な動作ができず、口が閉じられなくて食事や水をこぼしたり、食べ物を飲み込める形にできなかったり、飲み込む際に気管に誤って入るといった深刻な障害が生じます。高齢者の場合、摂食や嚥下の障害を訴えることが多くないため、早期に発見して対策をとることが大変重要です。次号では早期発見のポイントや摂食嚥下訓練なのについてご紹介したいと思います。